このページでは、日本各地に伝わる物の怪に纏わる物産を、物の怪観光が誇る物怪博物館コレクションの中から毎回一点づつ紹介してゆきます。




岡山県は桃太郎伝説で有名な所である。桃太郎伝説発祥の地は日本中幾つかあり、それぞれが本家争いをしていたりするが、岡山が有力視される理由として、この地に吉備津彦命の鬼退治伝説が伝わっている事が挙げられる。百済からやって来た王子・温羅(うら)は今の総社市にある鬼の城(きのじょう)に住んでいた。温羅は身の丈約4メートル、両眼は虎狼のように輝き、髪は焔のように赤く、頭には瘤が有り角のようだった。温羅は貢船を襲ったり、女を奪ったりして、村人達から恐れられていたが、やがて四道将軍としてやって来た吉備津彦命によって退治される。殺された温羅は首だけになっても吠え続けたので、釜殿の竈の下八尺を掘って埋めたが、鳴き止む事はなかった。そこで温羅の妻、阿曽郷の祝(はふり)の娘・阿曽媛(あぞひめ)に釜を炊かした処、吠える事が無くなった。以来何かある際には竈に参り、その時の釜の鳴り方で吉凶を占うようになった。これが吉備津神社で今も行われている鳴釜の神事の発祥である。歴史は征服者による記録でもある。この地に伝わる伝説にも、時の戦の勝者によって刻まれた湾曲した部分がある事は事実だと思うが、それを明らかにするのが本コーナーの目的ではないのでこれ以上は触れない。ともあれこんな伝説を背景として、岡山は桃太郎伝説発祥の候補地となった。土産物屋には吉備団子や桃太郎グッズが溢れ、今や岡山と言えば桃太郎というのは広く世間の知る処である。しかし今まで気になって仕方がなかったのが、そうやって販売される土産の殆どがキャラクター化された桃太郎グッズばかりである事。確かにその方が売れる事もわかるが、桃太郎の本家争いをするくらいだから、ここにしかない物産がもっとあっても良い筈である。吉備津土人形は吉備津在住の東隆志氏が制作する土人形だが、その中に温羅の首を思わせる鬼面の土鈴がある。茶色一色で塗られた型抜きによる頭部のみの土鈴だが、様式的でシンプルな作りが、遺跡からの出土品のような雰囲気を醸し出している。剥き出しの牙、大きく見開いた瞳がなかなか不気味だ。型抜きによる物だが、大量生産特有のあまい感じが、かえって鬼の不気味さを増している。しっかりと結わえてある太い紐も鬼の土鈴に相応しい。その紐を手に振ってみると、コロコロと乾いた音色が響く。まるで、地中深く埋められても今だに吠え続けている温羅のようだ。妖怪好きなら、これと吉備団子で岡山の土産は決まりだろう。価格は各850円也。
* 尚このコーナーに記載されている価格は筆者購入時の物で、あくまで参考程度です。購入時期や購入場所によって、若干の開きがある事を予め御了承下さい。
<参考文献>「岡山文庫23 岡山の伝説」立石憲利著
      「桃太郎譚」        同前峰雄著